政治学者、PTA会長になる
2022-09-24


岡田憲治 <毎日新聞出版・2022.2.25>

 本書ができるきっかけとなった5日連続の新聞記事を面白く読んでいたので、出版を知って手にするのを心待ちにしていた。PTA自体というより、政治学者が地域活動にどう関わるかへの関心の方が強かったが、読んでみて、期待通りの内容で大満足の読書となった。
 著者は大学教授でバリバリの研究者。遅くにできた子どもを育てることに積極的に関わり、小学1年生のときから学校のサッカースクールのボランティア、2年からは夫婦でPTAに参加していたという。その流れから、小学校のPTA会長を依頼され、当初は忙しくて無理、と断り続けたようだが、結局は引き受けることになった。本書は会長選出前のやりとりに始まって、結果的に3年勤めた任期を終えるまでに、著者が体験し、考えたことをまとめてあるのだが、PTAに限らず他の任意団体(例えば地域の自治会)と共通する点が多々あり、参考になることが多いと思った。また著者のスタンスが最初は上から目線と感じたが、PTA運営を継続してきた主婦たちと向き合い、後半では彼女らの立場になって考えるという態度に好感が持てた。それは著者がPTA会長候補となったとき、「ママたちと3時間立ち話ができる」という、ほとんどのパパが絶対にできないことができる珍種、と評された姿勢からくるのだろう。
 著者の住む地区は東京・世田谷区の東端(都心側)。小学生の保護者の圧倒的多数はオフィス・ワーカーで、女性も7割近くがフルタイムで働いている。それまでの当該PTAは主婦達によって運営され、古くからの慣習がそのまま残っていて、著者から見るととんでもなく非効率で、無用(と著者が思う)な「仕事」が平日の日中に入って来る。しかしママたちはそれらに不満を感じつつも前例を絶対視し、それを踏襲しないと不安になる。著者はこれに対して憤慨し、大ナタを振るおうとしたために多くの人から猛反発をくらったが、ママたちが最も嫌がっていた「お月見会(町長老の接待)」を廃止したことなどによって次第に信用を得て、具体的な事例は省くが、少しずつ著者が考える改革を実現することができた、というのが全体の流れである。
 しかし著者は、古いやり方を守ってきたママたち、すなわち「これまで地域のために子供たちのために頑張ってきた。そこで友情も生まれた。それは自分にとってかけがえのないものだし、そういうやり方で地域を生きることが間違っているとは思えない」と考えている人たちには最後まで考えが伝わらなかった、という。著者はそのことを自分サイドの責任と感じているようで、彼らへの配慮が足りなかったとして、もっと彼らの活動へのリスペクトを示しつつ変革に取り組んでいっていれば、と振り返っている。任期の3年目はコロナ禍に逢って活動は大幅に縮小せざるを得なくなり、改革も道半ばではあったが、相棒の会長補佐(干支一周年下の男性)とともに道筋は作った、との満足感は得られたようだ。
 本書の巻末には(著者のブログにもある)、PTA 「思い出そう10のこと」を載せている。
1、PTAは、自発的に作られた「任意団体」です。・・・強制があってはなりません。
2、PTAは、加入していない家庭の子供を差別しません。・・・企業ではないからです。
3、PTAに人が集まらないなら、集まった人たちでできることをするだけです。
4、PTAがするのは、「労働」ではありません。・・・対価のないボランティア「活動」です。
5、PTAのボランティア活動は、もともと不平等なものです。・・・でも「幸福な不平等」です。
6、PTA活動は、ダメ出しをされません。・・・評価はたったひとつ 「ありがとう」 です。
7、PTA活動は、生活の延長にあります。・・・家庭を犠牲にする必要はありません。
8、PTA活動は、あまり頑張り過ぎてはいけません。・・・前例となって「労働」を増やします。
9、PTAは、学校を応援しますが指導はされません。・・・学校と保護者は対等です。
10、PTAの義務は一つだけです。・・・「何のためのPTA?」 と考え続けることです。

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