男性中心企業の終焉
2023-02-25


浜田敬子 <文春新書・2022.10.20>

 LGBTQも含めたジェンダー平等や、様々な意味での多様性の意義は私の関心事の一つでもあるので、本書のタイトル実現の具体性を知りたくて読んでみた。日本の男女格差は先進国で最低水準であることが毎年報道され、男女雇用機会均等法、育児休業制度、両立支援制度、女性活躍推進法など様々な法整備が進められているものの、世界における日本のジェンダーギャップ指数の順位は低下する一方だ。それは日本の状況が悪くなっているからというより、アジアやアフリカ諸国も含めた世界の国々の変化が加速度的に進んでいるから、という(アフガニスタンといった特殊な国はあるが)。本書はジェンダー格差の解消の意義と日本の現状、変化が進まない要因の分析を紹介するとともに、改善に取り組んでいる企業(本書によれば全体の1割程度?)や個人の具体例を挙げることにより、日本の企業に変化を促すことが目的でタイトルを選んだと思われる。読み終わった印象では、確かに男女格差の是正は企業経営においても重要な意味があるようだが、「終焉」は少なくとも日本では残念ながらまだ著者の希望的観測あるいは願望と感じた。それが明らかであれば、もっと多くの企業が抗うであろう。
 著者は朝日新聞社の記者から雑誌の編集者になり、AERAの副編集長、編集長、米国のオンラインメディアBusiness Insider Japanの統括編集長を経て、現在はフリーのジャーナリスト。企業が変われば社会が変わると考えていて、2人の子供を育てながらこのようなキャリアを積んできた自身の経験も本書にはかなり書かれている。
 本書の中に具体的なデータは示されていないが、マッキンゼーは2007年、リーダー層における女性比率と企業業績には高い相関性が見られるとのレポートを発表した。以降、多くの地域や産業別の分析でも同様の結果が得られ、さらに最近マッキンゼーは、日本は男女格差を改善することによって、GDPを6%押し上げることができる、との分析結果も出しているそうだ。
 本書ではこれらの論理的背景として、以前に読書メモに残した「多様性の科学」を引用して多様性の意義を示し、9.11を防ぐことができなかったアメリカCIAの同質性(WASPの男性ばかりでイスラム教徒がいなかった)にも言及している。社会は男女同数なのだから、その社会を対象とした企業活動は、歳取った男だけからなる集団ではなく、男女の数がある程度バランスの取れた上層部がなければ適切な判断ができないだろう、ということだ。
 日本のジェンダー格差が解消されない要因の一つは、日本型の雇用形態にあるとの説を取り上げている。これは以前、「ジョブ型雇用社会とは何か」(本書の参考文献に挙もげられている)の読書メモに書いたように、世界標準であるジョブ型雇用ではなく、終身雇用や年功序列といった日本独特のメンバーシップ型(詳細は6つ前の読書メモ)雇用慣行の成功体験が大きく影響している、という。今の若者の間では終身雇用は一部の人のみ、と考えられているだろうが、現在の多くの企業で終身雇用はまだ崩れておらず、「管理職、リーダー層になるような中核社員には雇用保障と引き換えに、職務や労働時間、勤務場所は限定せず働かせ、・・・、多くの女性の雇用の受け皿になっていた一般職という職種は契約社員や派遣社員などの非正規化が進行した」という分析を紹介している。

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